ドッグランで愛犬が吠えてしまう光景は、飼い主にとって悩みのタネかもしれません。しかし、その吠えが示すのは、しばしば犬の感情やコミュニケーションのサインです。
本記事では、ドッグランで吠える理由を「興奮・恐怖・縄張り」といったタイプ別に分析し、それぞれに合った5つの具体的な飼い主対応法を紹介します。また、吠えやすい犬種や性格に対する向き合い方、他の飼い主との関係づくり、そしてドッグランが無理なく使えるようになる選択肢まで網羅。
吠える理由を理解し、少しずつ対策を積むことで、愛犬との日々の時間がもっと気持ちよく、笑顔あふれるものになるはずです。
1. ドッグランで犬が吠えるのは珍しくない

初めての環境に興奮する犬の心理
ドッグランは普段と違う新鮮さに満ちていて、走り回る広いスペースだけでなく、さまざまな犬や刺激が一度に入ってきます。このような未知の環境に置かれた犬は、身体も気持ちも刺激されてその高まりを吠えという音声で表現しがちです。吠えることで「今、楽しいよ!」という気持ちを伝えているケースも多く、必ずしも否定すべき行動ではありません。
また、自分のテンションの高さを周囲に知らせることで、「今は遊びモードだよ」と他の犬に理解してもらおうとしている可能性もあります。つまり吠えは、興奮の燃え上がりと、相手に向かって自分の“状態”を伝えるコミュニケーションと捉えることができます。
吠え=ストレスやコミュニケーションのサイン
吠えにはもう一つの側面として、“ストレスや不安”が隠れている場合も少なくありません。慣れない飼い主や犬が多い環境では、知らない存在への警戒心から怖さを感じた犬が吠えることがあります。また、気心の知れた少数の相手でも、予想外の近付き方をされると「嫌だ!」と声に出してしまうことがあるのです。
このように、ドッグランでの吠えはしばしば、「楽しさ」の発露であると同時に、「これはちょっと苦手だよ」という自己主張やコミュニケーションの一環でもあります。飼い主はまず、その背景にある犬の心理に目を向けることが大切です。
2. 吠える原因をタイプ別に解説

興奮型:テンションが上がりすぎる犬
飼い主さんや他の犬と出会った瞬間、テンションが一気に上がり、楽しい気持ちが抑えきれずに吠えてしまう子がいます。まるで「遊びたい!」「うれしい!」という感情が声になってあふれ出すようなイメージで、「キューン」「ワンワン!」と高めの声を出すことも。
このタイプは、エネルギーが有り余っていることが吠えの引き金になっているため、
- 十分な運動で事前にエネルギーを発散させておく
- 相性の良い犬や落ち着いた犬を遊び相手に選ぶ
- 興奮しすぎる前にクールダウンの時間を挟む
など、興奮のスイッチを入れすぎない工夫が効果的です。
遊びたい気持ちそのものを否定せず、上手に発散させてあげることで、吠えのコントロールにもつながります。
恐怖型:見知らぬ犬や人に対する警戒
突然見知らぬ犬に近づかれたり、大型犬に囲まれたりすると、不安や恐怖を感じて吠えてしまう犬もいます。このときの吠えは、単なる問題行動ではなく、「自分の身を守りたい」という本能的な防衛反応です。いわば、「これ以上近づかないで!」という緊急アラート。
このタイプの犬に無理やり吠えをやめさせようとすると、かえって恐怖心が強まり、より強い警戒や攻撃性に発展することも。
まずは犬が安心できる距離(バッファゾーン)を確保し、落ち着ける環境を整えることが大切です。そのうえで、
- 距離をとって観察させる
- 徐々に「怖くない存在」だと学習させる
- 飼い主が冷静にふるまい、不安を和らげる
といったステップを踏んだ安心づくりが、吠えの改善につながります。
縄張り型:独占欲やリーダー意識から来る吠え
自分のリードの届く範囲や、飼い主のそばを「自分の縄張り」と感じてしまい、そこに他の犬が近づくと「ここは自分のスペースだ!」と主張するように吠えてしまうタイプです。
この行動は、独占欲や縄張り意識、あるいはリーダーとして群れを守ろうとする気持ちの表れと考えられます。
このような犬には、以下のような対応が効果的です。
- 飼い主が先に他犬に触れることで安心を与える
- 犬の前に立ち、リーダーとして場を仕切る姿勢を見せる
- 過度に防衛しなくても大丈夫だと伝える穏やかな態度
大切なのは、「守らなきゃ」と感じさせない環境づくり。飼い主が頼れる存在であることを伝えることで、犬も無用な吠えを減らしていけます。
3. 飼い主ができる5つの具体的な対策

① 事前にエネルギーを発散させる
ドッグランでいきなり全力モードになってしまう愛犬には、事前のエネルギー発散が非常に効果的です。たとえば家でボール投げや引っ張りっこなどをして、軽く疲れさせてから出掛けると、ドッグランに着いた時点で興奮のピークを過ぎ、落ち着いて他犬と遊べるようになります。「踏む前に煮る(エネルギーを発散する)」というイメージで、まずは身体と頭を使ってエネルギーをリセットする戦略がカギです。
② 距離感の取り方を調整する
犬はお互いのパーソナルスペースを大切にしています。特に興奮や恐怖が混在している犬には、周囲の犬や人との距離を飼い主がコントロールすることが欠かせません。例えば、いきなり近づけずにゆっくり歩かせたり、ほかの犬がいないエリアに誘導したり。犬が安心できる距離を保ちつつ、徐々に短くしていくことで、“大丈夫な範囲”を少しずつ広げることができます。
③ 小型犬・大型犬ゾーンを見極める
ドッグランが複数エリアに分かれている場合は、愛犬に合ったゾーンを選ぶことが重要です。興奮しやすい小型犬は、同サイズの子がいる小型犬エリア、大型犬に怯える子は大型犬から距離を取れる柵越しのエリアが安心でしょう。適切な環境を選ぶことで、不安な状況を最小限に抑えることができます。
④ すぐに呼び戻せるコマンドを習得する
「来い」「おいで」などの呼び戻しコマンドは、万が一吠えて制御が難しいときに大きな武器になります。事前にドッグランの外や家庭内で練習し、飼い主に戻ってきたら褒める・おやつを与えるといった成功体験を繰り返すことが有効です。飼い主が“安全な場所”となるよう犬に教えることで、不安な状況でも自ら戻る選択がしやすくなります。
⑤ 吠えた後の対応を一貫させる
吠えた瞬間に叱るのではなく、「吠えなかったとき」を意識して一貫して褒めることが重要です。叱ると飼い主の状態に反応して不安が増し、吠え癖が悪化する恐れがあります。「吠える=注目される」という学習を防ぎ、「静かにしている=良いことがある」と繰り返し学ばせるのがコツです。おやつ・声かけ・触る等を静かな行動の直後に行うことで、犬は「吠えない方が得」と理解していきます。
4. 吠えやすい犬種・性格と向き合い方

吠えやすさは個性のひとつ
牧羊犬やテリア、トイプードルなどには、もともと吠えやすい特性をもつ犬種が多く存在します。けれども、「吠える」という行動は、単なる問題行動ではありません。それは犬なりのコミュニケーション手段であり、注意を引いたり、感情を伝えようとする力でもあります。
吠えることを一律に「悪いクセ」と決めつけるのではなく、その子の性格や役割に根ざした“個性”として受け止めることが大切です。大切なのは、その個性を理解したうえで、周囲との関係性の中でどう導いていくかという視点を持つこと。愛犬の声に耳を傾けながら、安心できる行動に導いていく姿勢が、信頼関係を育む第一歩です。
無理にやめさせようとしないことも大切
犬が吠えるのを「完全にやめさせよう」と強く抑え込もうとすると、かえって逆効果になることがあります。吠えることで伝えたい感情や欲求が抑圧され、ストレスがたまり、逃走を試みたり、噛みつき・家具の破壊といった別の問題行動につながるケースも少なくありません。
大切なのは、「吠える」という行動を前提に、どう向き合い、どう対応していくかを考えることです。吠えの原因や状況に応じて冷静に対応し、必要に応じて距離をとる、落ち着かせる、気を逸らすといった建設的な方法を積み重ねることで、犬との関係はより安定し、信頼も深まっていきます。
「吠えないように」ではなく、「吠えても安心できる環境を整える」という視点こそが、長く寄り添うための鍵になります。
5. 他の飼い主さんとの関係を大切に

事前のあいさつ・会話でトラブル回避
ドッグランでは、犬同士の相性だけでなく、飼い主同士のちょっとしたコミュニケーションも大切なポイントです。入場前に「うちの子、少し吠えるかもしれませんが…」といった軽い挨拶や自己紹介をしておくことで、周囲の理解や協力が得やすくなります。
こうしたひと言があるだけで、万が一吠えてしまった際にも「そういう子なんだな」と受け止めてもらいやすくなり、トラブルの芽を未然に防ぐことができます。また、飼い主同士が会話することで場の緊張が和らぎ、犬たちにも安心感が伝わりやすくなります。
ドッグランはあくまで共有スペース。小さな気配りや誠実な姿勢が、気持ちよく過ごすための土台になります。
気になるときは一時的な退出も選択肢
どんなに適切な対応をしても、その日のコンディションや周囲の状況によっては、吠えがなかなか治まらないこともあります。そんなときは無理にとどまらず、一度ドッグランを離れて気持ちをリセットする“クールダウンの時間”を取ることも、立派な選択肢です。
「今日はタイミングが合わなかったな」と割り切って、別の時間帯に出直す、他のランに切り替えるといった柔軟な対応が、愛犬にとっても飼い主にとっても負担の少ない方法です。
無理を続けてトラブルやストレスを重ねてしまうよりも、一歩引いて余裕を持つ判断が、ドッグランとのより良い付き合い方につながります。
6. 無理にドッグランを使わないという選択も

散歩での社会化でも十分
ドッグランはたしかに犬同士の交流を促す場として便利ですが、必ずしもすべての犬にとって最適な環境とは限りません。吠えやすい子、繊細な性格の子、過去に怖い経験をした子にとっては、むしろストレスになることもあります。
リードをつけたままの散歩中に、他の犬と距離をとりながらあいさつを交わすことも立派な社会化のトレーニングです。また、ドッグカフェや人通りの多い公園などで、さまざまな刺激に慣らしていくことも非常に効果的です。
大切なのは、「社会化=ドッグランに連れて行くこと」と思い込まず、愛犬に合った方法で無理なく続けること。その積み重ねが、犬の自信を育て、飼い主との信頼関係をより強くしていきます。
愛犬の性格に合った過ごし方を
ドッグランが苦手な犬でも、経験を重ねたり、少しずつ慣らしていくことで変化が見られるケースは少なくありません。時間をかけて少しずつステップを踏むことで、自信を持てるようになる犬もいます。
ただし、どれだけ工夫しても極度に不安を感じてしまう子もいます。そのような場合は、無理にドッグランを克服させる必要はありません。リード付きの散歩や自宅での遊び、信頼できる犬との個別交流など、他の方法で十分に社会化を育むことができます。
重要なのは、「みんなが使っているから」ではなく、愛犬が“今の自分”のままで安心できる場所を選んであげること。その視点を持つことで、犬の個性を尊重しながら、飼い主との信頼関係も深まっていきます。
7. まとめ:吠える理由を理解して、対策を積み重ねよう

ドッグランでの吠えは決して「悪い癖」ではなく、多くの場合、犬なりの感情や意思表示のひとつです。興奮、緊張、不安、嬉しさ──その背景にある“犬からのメッセージ”に耳を傾けることが、健やかな関係づくりの第一歩となります。
本記事で紹介した5つの対策を通じて、吠えの頻度や状況は徐々に改善が期待できます。ただし、即効性を求めず、「吠えやすさはその子の個性のひとつ」と捉え、抑え込むのではなく、上手に付き合っていく姿勢が大切です。
そして何より、飼い主自身が焦らず、落ち着いて対応すること。それが犬に安心感を与え、信頼関係を深める最大の鍵となります。
ドッグランは、ただ運動をさせる場所ではなく、飼い主と愛犬が“共に育ち合う場所”でもあります。吠えの理由を理解しながら、ひとつひとつの経験を大切に重ねていくことで、きっと愛犬にとっても「また行きたい」と思える安心の場になっていくはずです。
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