成犬になってからのハウストレーニングは「もう手遅れでは?」と不安に感じる飼い主も多いかもしれません。しかし実際には、年齢を問わずトレーニングのやり直しは可能であり、むしろ成犬だからこそ理解力が高く、安定した成果を得やすい側面もあります。
本記事では、成犬にハウストレーニングが必要な理由から始まり、過去のトラウマや苦手意識を克服するアプローチ、実践的なトレーニングステップ、失敗しないための注意点まで、具体的な方法を網羅的に解説します。

うちの子、成犬になってからもハウスが苦手で…。今さらトレーニングってできるのかな?

だって前に入れられて怖かったんだもん…。でも、ほんとは落ち着ける場所がほしいかも。
信頼関係を築きながら、愛犬にとって「ハウス」が安心と自由を感じられる居場所となるよう、焦らず丁寧に取り組んでいきましょう。
1. 成犬にハウストレーニングが必要な理由

「ハウス」は安心の場所
「ハウストレーニング」と聞くと、子犬の時期に行うものというイメージが強いかもしれません。しかし、成犬にとってもハウス(クレートやケージなど)を「安心できる自分の場所」として認識させることは非常に重要です。
犬は本来、狭く囲われた空間を好む“巣穴動物”の性質を持っています。天井があり、周囲が囲われている場所は、外敵や刺激から身を守れる安全地帯。そのため、ハウスが“自分だけの落ち着ける場所”であると理解すれば、日常の中で不安や興奮から自ら身を引く「心の避難所」としても活用できるのです。
また、ハウスは来客時や旅行、災害時、動物病院での待機など、さまざまな場面で役立ちます。「ここにいれば安心」という経験を積み重ねておくことで、環境の変化に強いメンタルが育ちます。
問題行動を防ぐ基盤にもなる
ハウストレーニングは、安心感を与えるだけでなく、さまざまな問題行動の予防や改善にも効果を発揮します。
たとえば、以下のような行動に悩んでいる飼い主さんは少なくありません。
- 来客時に興奮して吠える・飛びつく
- 飼い主の外出時に不安から粗相や破壊行動をする
- 夜間や留守番中に不安で眠れない、鳴き続ける
こうした問題の多くは、「どこでどう過ごせば安心なのか」がわからない不安から来ています。ハウストレーニングによって、愛犬が“安心して過ごせる場所”を持てるようになると、自立心も芽生え、こうした不安やストレス行動の軽減にもつながります。
成犬であっても、「今からでも遅くない?」という心配は不要です。むしろ、心と体が成熟している成犬だからこそ、しっかりとしたルールづくりができれば、安定した生活を送りやすくなります。
2. 成犬が苦手になる原因とは?

過去のトラウマや失敗体験
成犬がハウスに対して苦手意識を持ってしまう理由の一つに、「過去の嫌な記憶」があります。特に保護犬や、多頭飼育崩壊の現場から引き取られた犬、ペットショップなどで長くケージ飼育されていた犬は、ハウス(ケージ)に対して“閉じ込められる場所”というマイナスのイメージを持っていることが多いのです。
例えば、
- 無理やり閉じ込められた経験がある
- 狭い空間で叱られた・放置された
- 吐いたり体調を崩した時にケージに入れられた
といった体験が、ハウス=怖い場所・不快な記憶として刷り込まれてしまっている可能性があります。
こうした犬にとって、ハウスに近づくこと自体が不安の引き金になってしまうため、焦ってトレーニングを進めると逆効果になることも。トラウマが背景にある場合は、まずは犬の気持ちを尊重し、少しずつ信頼を積み上げながら「ここは安全だよ」と伝えていく根気強さが必要です。
飼い主側の誤った使い方
もう一つの大きな原因は、飼い主側の「ハウスの使い方」によるものです。たとえば以下のような対応をしてしまうと、ハウスに悪い印象を与えてしまいます。
- 鳴いたからすぐに出す(=要求すれば出られると学習)
- イタズラや粗相をした直後にケージに入れる(=罰として認識)
- 夜間や留守中だけケージに入れ、普段は使わない(=不安なときだけの場所)
こうしたケースでは、犬にとってハウスが「好ましくない空間」となり、自ら入りたがらない・中で落ち着けないという結果につながります。
本来、ハウスは“ご褒美のような場所”であるべきです。人間でいえば「静かで心地よい自室」のような存在にすることが大切。日常のなかでポジティブに使われてこそ、犬自身も「ハウスに入りたい」と感じてくれるようになります。
3. トレーニングは段階的に始めるのがポイント

成犬のハウストレーニングは、「いきなり長時間入れる」のではなく、少しずつステップを踏むことで成功に近づきます。特に過去にハウスに対してネガティブな印象を持っている犬に対しては、焦らず、段階的に慣らしていくことが重要です。
まずは「入る」ことへの抵抗感をなくす
第一ステップは、「ハウスに入る=怖くない」と教えてあげることから始まります。
最初はハウスの扉を開けっぱなしにして、近くにおやつやフードを置くことから始めてみましょう。犬が少しでも近づいたら、やさしく声をかけて褒めてあげます。無理やり押し込むような行為は厳禁。犬が自分の意志で入ろうとした瞬間を見逃さず、「いい子だね」「偉いね」とポジティブな声かけで応えてあげてください。
この段階では、ハウスの中におやつを置いても入らない犬も多いですが、それでも大丈夫です。まずは“ハウスの近くにいる=安全”という認識を少しずつ積み上げていくことが大切です。
また、ハウスの中に飼い主のにおいがついたタオルやお気に入りのぬいぐるみを入れておくと、安心感を高める効果があります。
次に「落ち着く」→「留まる」を習得
犬が自発的にハウスに入れるようになったら、次は中で落ち着いて過ごすステップへ進みます。
短時間から始めましょう。たとえば…
- ハウスの中に入ったら、扉は閉めずに1分ほど中にいてもらう
- その間、そっと見守りながら静かな環境を整える
- 出たがる前に扉を開けてあげて「自分で落ち着けたね」と声をかける
慣れてきたら、少しずつ時間を伸ばしていきます。数分ずつ段階的に延ばしていくことで、「ハウス=落ち着ける場所」という印象が強くなり、留まることに対して抵抗がなくなっていきます。
また、食後や散歩後など、犬がリラックスしやすいタイミングでハウスに誘導するのも効果的です。疲れているときは静かに休みたいという気持ちが強くなるため、ハウスで過ごすことが自然に受け入れられやすくなります。
このように、
- 入ることに慣れる
- 中で落ち着いて過ごす
- 扉を閉めてもパニックにならない
という3ステップを意識しながら、トレーニングを段階的に進めていくのが、成犬のハウストレーニング成功への近道です。
4. 信頼関係の構築がカギ

成犬のハウストレーニング成功の最大のポイントは、「信頼関係」にあります。犬は信頼できない相手の指示には従いません。特に成犬は、これまでの生活環境や経験が行動に大きく影響するため、飼い主との関係性がトレーニングの進度を大きく左右します。
おやつ、ごほうび、声かけの使い方
信頼関係を築くためには、「飼い主のそばにいると安心できる」「言うことを聞いたら良いことがある」と感じてもらうことが大切です。そのために、おやつやごほうび、優しい声かけを効果的に使っていきましょう。
たとえば、
- ハウスに入る→「いい子だね」と声をかけて、おやつを与える
- ハウスの中で静かに過ごせた→ごほうびのフードや撫でてあげる
- ハウスから出たがらず落ち着いていた→大げさなくらい褒めてあげる
このようなポジティブな経験を繰り返すことで、犬の中に「ハウスに入ると良いことがある」「飼い主さんと一緒に頑張ると嬉しいことが起きる」という記憶が蓄積されていきます。
ただし、おやつを与えるタイミングがずれると、「騒げばおやつがもらえる」と誤解することもあるので、落ち着いて静かにしている状態をしっかり見極めて与えることが大切です。
無理やり入れない、叱らないことが大前提
たとえどんなにトレーニングがうまくいかない日があっても、決して「無理やり入れる」「叱りつける」などの対応はしないでください。
犬にとってハウスは、自分だけの“安心できる巣穴”であるべきです。そこに無理やり押し込まれたり、嫌なことが起こる場所だと感じたりすれば、信頼関係もハウスへの好意もすべて崩れてしまいます。
また、「叱る=教える」ではないということを理解しておくことも大切です。犬は怒鳴られたり叩かれたりしても、「なぜ怒られているのか」は理解できません。むしろ、「ハウスに入ると怒られる」という間違った関連づけをしてしまい、トレーニングが逆効果になることもあります。
失敗しても焦らず、犬のペースに合わせて小さな成功体験を積み重ねていく。それが成犬との信頼関係を深め、ハウストレーニングを成功させる鍵なのです。
5. よくある失敗と対処法

成犬のハウストレーニングでは、どんなに丁寧に進めていても途中でつまずくことがあります。ここでは、多くの飼い主が直面する失敗例と、それぞれに対する具体的な対処法をご紹介します。
吠える・出たがる場合の対応
よくある行動:
- ハウスに入れた途端に「ワンワン!」と吠え続ける
- ドアを引っかいたり、飛びついたりして出ようとする
原因:
- 「ハウス=閉じ込められる場所」というネガティブな認識
- 鳴いたら出してもらえるという学習
- エネルギーが余っている状態で入れられている
対処法:
- ハウスに入る前にしっかり運動させる
散歩や遊びでしっかり体力を使わせ、落ち着いた状態で入れることで、ハウス内でも静かに過ごしやすくなります。 - 吠えてもすぐには出さない
吠えた直後に出すと、「吠えれば出られる」と覚えてしまいます。反対に、静かになった瞬間を見逃さずに褒め、出してあげることで、「静かにしていれば良いことがある」と教えましょう。 - ブランケットをかけて視界を遮る
ケージの周囲を落ち着いた布などで覆うと、外部の刺激が減り、気持ちを落ち着けやすくなります。
粗相をしてしまう場合の対応
よくある行動:
- ハウスの中でおしっこやうんちをしてしまう
- 入るのを嫌がる理由が「汚れていて気持ち悪いから」
原因:
- トイレのタイミングを把握できていない
- ハウス内が不快な思い出と結びついている
- トイレトレーニングが不完全
対処法:
- 入れる前に必ずトイレに連れていく
ハウスに入れる前におしっこやうんちを済ませておくことで、粗相の確率を下げられます。 - 粗相しても絶対に叱らない
怒ると「ハウス=怖い場所」になってしまいます。静かに片付け、再度トイレのタイミングを見直しましょう。 - 清潔さを保つ
粗相した場合は、においが残らないようにしっかりと掃除し、ハウスを快適な空間に戻してあげましょう。
飼い主の忍耐が続かない場合の対処法
よくある状況:
- 何日も成果が出ず、あきらめてしまう
- 成果が出ていたのに、気が緩んで習慣が崩れてしまう
原因:
- 飼い主が「すぐにできるはず」と思い込んでいる
- 小さな進歩に気づけない
対処法:
- 記録をつけて「できた日」を可視化する
「今日は5分間静かに過ごせた」「吠えなかった」など、小さな成功をノートやアプリで記録すると、自信につながります。 - “毎日少しずつ”を意識する
1日10分でも「ハウスの時間」を作ることが継続のコツ。習慣化すれば、犬にとっても自然なことになります。 - うまくいかなくても自分を責めない
成犬のトレーニングは簡単ではありません。犬も人間も日によって調子が違うのは当然です。焦らず、長い目で見て取り組みましょう。
6. まとめ:成犬のハウストレーニングは「焦らず、褒めて、続ける」

成犬のハウストレーニングは、「子犬のときに終わっていなければもう無理」と思われがちですが、そんなことはありません。成犬だからこそできる理解力や習慣化の力を活かせば、時間はかかっても確実に成功へと導くことができます。
そのために大切なのは、「焦らない」「叱らない」「褒めて伸ばす」という3つの基本姿勢です。
ハウスは“安心できる自分の場所”に育てるもの
犬にとってハウスは、ただのケージではなく、「安心して身をゆだねられる場所」であるべきです。強制的に押し込むようなやり方では、恐怖心や不信感を与えてしまい、逆効果になります。
「ハウスに入ったらいいことがある」と思わせること。
「自分から入りたくなる場所」にしてあげること。
このような積み重ねによって、ハウスは犬にとっての“居場所”となっていきます。
トレーニングは「少しずつ、できたら褒める」が基本
できなかったことを叱るのではなく、できた瞬間をしっかりと褒めることが、犬のやる気と信頼を引き出すコツです。
・1分でも静かに入っていられたら成功
・吠えなかったらそれも成功
・自分から入ったら大成功
このように、小さな成功体験を丁寧に積み重ねていくことで、犬は「自分にもできる」という自信を持ち、飼い主との信頼関係も深まっていきます。
一緒に暮らす時間を、より安心で心地よいものに
成犬のハウストレーニングは、単なる「しつけ」ではありません。飼い主と犬との信頼関係を深めるコミュニケーションの一環であり、犬にとって「安心できる居場所を用意してあげる」ことでもあります。
忙しい毎日の中でも、愛犬の安心と自立を支えるために、少しずつで良いのでトレーニングを続けてみてください。
きっといつか、「ハウスに入ると安心する」と感じて、自ら中に入っていく姿が見られるようになるはずです。
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